てらterra

『賢者の智慧の書』著者・大竹稽の連載がスタートしました 第五回

人間の両面性(第 5 回)

ロシュフコーとブリュイエールにないパスカルの特徴は、彼は宗教性というものを常に自分の命や死と関わりながら忘れなかったのと同時に、大物理学者、大数学者であったことにあります。気圧の単位やパスカルの三角形を打ち出したことからわかるように、パスカルはデカルトに比肩するぐらいの数学体系を合理的かつ理論的に打ち立てる頭脳をもった数学者、物理学者だったのです。

要は、パスカルは「合理主義だけが世の中の真理を解く」とまでいったデカルトをバカにしていますが、排除しようとしていたわけではないのです。パスカルの考えるしなやかさというのは、合理性だけでなく、不合理性も認める人間の両面性を指しているのです。

たとえば、朝は震えるほど寒かったのに、午後にはコートいらないじゃんというほどの暑さになったとして、気象庁では合理的に説明してくれるでしょうけど、実際に暑さにあえいでいる僕の苦しみを、誰か説明してくれるのか?という話です。カントのように合理的に考えるよりも、パスカルのように、嫌な天気だなあと思いながらも、仕方ないから次の仕事の現場にいこう、と動き出すのが、日常の不条理な物事との付き合い方ではないでしょうか。

人間の両面性について、パスカルはさらに、人間は臆病であり勇敢であるともいっています。アリストテレスは人間の理想型として、中庸の考え、つまり両極端を消して真ん中にいなさいといいましたが、パスカルは人間には両極端の面があり、その間をぐらぐら揺れているのが人間だと述べています。その不安定さが弱さでもあるけれど、そこから考えだし何か自分なりの答えを導きだせるからこそ、人間は貴重であり偉大であるというのです。

パスカルは我々に正解を与えるわけではなく、悩みの中で生きなさいと言っているだけです。しかし私がいま現代の問題に哲学をどう活かせるかと考えたとき、人間の人生や命に対し一番メッセージ力を持っているのはパスカル、モラリストたちだと、心の底からそう思っています。